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一話一言
四十一
石斛浪華の近藤正斎、〈重蔵名守重、御弓矢鎗奉行、〉己卯臘月十五日発の書簡に、此比伝承候へば、京摂ともに石斛至て流行、一根七八金に至り候由、摺物入手則呈上候、〈其文如左〉 百川〈子海◯中略〉こヽに石蔛と名づくる小草あり、閑雅の逸物にして、暑地なきも、寒暖土地の嫌ひもなく、作り楽しむに、いとやすふして、愛するの人多し、近き比やんごとなき御たちにも、数品の石蔛お集めたまひ、この草和名いわとくさ、いわくすりなどいふて、言のはの御すさみのたねともならんと、めでましければ、このむの友どちよろこびあへて、数品のあつめお望み、遠近に同好の友の広し、〈蕈雲此文拙きことのの字お見てしるべし〉こたび四季の寿てふ摺物お絵がき、春秋のうつりかはるかたち、冬は下葉よりうつろひて葉落となり、根に来る年の新芽おもよふし、身につもる老の数おもわすれ、春まちどふに思ひつヽ、かく四時のたのしみつきせぬも、遠近に沙汰せんと、同好つどひ、すりものひらきする事しかり、草の名によりてや人の好らんいわくすりとぞ弄ける