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古今要覧稿
草木
おと〳〵し 〈天麻〉乎止乎止之 名義いまだ詳ならず、按に古語に多豆多豆之といふ詞お、後世は多止多止之といへど、此乎止乎止之とは其義似よるべくもあらず、又赤箭は前年に植しもの腐敗して、今年に至れば、其産地おかへて、思もよらぬ所に生ずるものなれば、前年お乎止止之といひ、前日お乎都比などいへるによりて、此名義おとかまくおもへども、いまだ其たしかなる考お得ず、 加美乃也此もの一茎直上して枝葉なく、其状頗る箭簳のごとくなるによりて、加美乃也と名づく、加美は即神字の意にして、其さま常に異なるによりてなり、又加美乃也賀良、鬼乃也賀良といへるも、其義全くこれに同じ、其鬼乃也賀良は、新抄本草に太清経お引て、赤箭一名鬼箭とあるによれば、即和漢通名なり、又日光也賀良は、此もの下野の日光に産するもの多きによりて名付しなり、盗乃阿之 按に赤箭の人足に似たるよしは、既に弘景注にもみえたり、本草啓蒙にも其説お載たれど、今足の上に盗字お冠して、これお称するものは、凡盗の人家おうかがふには、物音もせず、ひそかにぬき足して行来するものなれば、此物の今年植し所には、来年は生ぜずして、ひそかに外の所へ行て生ずること、全く盗のぬきあしして行来するに、その趣やヽ似たるによりて、俗にこれお盗のあしとはいへる物なるべし、〈◯下略〉