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農業全書
六/三草
藍藍は是も三草の一つにて、世お助る物なり、衣服其外絹布お染てあやおなし、取分是お以て染れば、其物の性おつよくし、久しきに堪て損じ敗るヽ事なし、然るゆへに古今広く作る事なり、先たねお収る事、二番おからずして、みのらせて取べし、水田に作るは、三番にても取てよし、乾しもみ取て、俵かかまぎなどに入おくべし、苗地の事、蕪菁大根の跡、又は稲田もよし、よく耕しこなし、糞お多くうちおき、節分より三十日三十五日して種子お下し、其上に濃糞お多くうち、又灰お以て覆ふもよし、又はたねお灰と沙とに合せて蒔も、むらなく能生る物なり、此時は別に種子おほひは入ず、さて生て後廿日ばかりして、濃糞お右のごとくうつべし、其後心葉出ては、四分糞〈濃糞に濁水お六分合せたるなり〉にしてうつべし、さて六十日して、水田なれば畦作りし、其幅三尺五寸もあらば、一かぶに二もと三もと取て、横筋一通りに八科(やかぶ)ばかりうゆべし、がんぎの間は一尺許なるべし、科数は畠も大かた同事なり、一筋に六かぶ七かぶうゆるもあるべし、高田にうゆる時は、男一鍬お以て筋おきりて通れば、女は跡より苗お持て葱おうゆるごとくうゆるお、男又〓りて土おおほふなり、高田のかはきたる地ならば、露ばせとて、水お溝よりすくいかくる箱あり、箱の一方おはなち、一方には長き手のある物お以て、水おそヽぐ事、一日に二三度も、地のしめるほど、すくいかくるなり、うへて三日の間、雨気なくば頻りに水おうつべし、猶又ひでりつよくば、用水あらば溝よりしかくべし、瓜田に水おしかくる事は、溝半分に過べからずといへども、是は溝に一盃たヽゆる程にすべし、うへて十五日して、桶糞おがんぎ一筋に五合ほど入べし、初は少うめたる糞よし、其後は濃程がよし、三度にても四度にても、多く入るほど色よし、鰯もよくきく物なり、さて虫おおひはらふ事、藍お作る第一の辛労太儀是に極る事なり、竹の小枝お十本余も箒にゆひ、是お以て葉に当らざる様に、さら〳〵とおひはらふべし、又亀虫の時は、箕おわきにうけおきて、虫おはらひ入て捨べし、五十八日或六十日に当れば、凡半夏生の比なり、此時天気およく考て刈収むべし、刈と其まヽ麦などお刈干ごとく攤げ干し、其日昼過より取あつめ、二尺五寸縄ほどにたばね家に入、明る日根の本お葉の付ぎはより切すて、葉の方おすさわらお切ごとく、いかにも細かにきざみ、箕にて、ひても又あおちても、葉と茎とお簸分て茎は捨べし、さて葉おばいかほどもつよき日に合せ、よく干あげ、筵だてにしても、俵に入おきても、商人にうるには升にてはかり、一石お銀十匁、是凡中分の直段なり、又二番お取事、たとへば高田なれば、其跡に稲お作りたるが利分勝るか、又二番お取たるに益あるか、藍と米との直段お考へて、利の多きお作るべし、高田は大方稲の利つよき事のみ多し、下田(ひきヽた)は二番お取たるも、稲お作りたるも、かはる事なき物なり、二番も一番の升数はさのみおとらぬほどある物なれども直段賤し、是までが城州鳥羽にて塩お作る法なり、又うゆる法、たね色々ある中に、唐藍(たうあい)とて葉丸ながく厚く、茎うすあかく、色よきあり、同じく葉の丸きもあり、此二色染付よし、又蓼藍とて、葉細ながく、たでによく似たるあり、是は土地のきらひもさのみせず、さかへ安き物なれども、染付よからず、前の二色の内お作るべし、苗地は田にても畠にても、肥良の性すぐれてよき地お、旱に水の便りまで吟味し、耕す事三四遍も、其上は力の及ぶ程、いかほどもよくこなし、三月上旬先たねお水に浸し、芽お出しおき、さて畦作りし種子お蒔、其上に熟糞お土と合せ、種子おほひおし、三葉の時水お澆ぎ、中おかきあざり芸り、畦中きれいにしておくべし、けがらはしき事おきらふ物なり、苗ふとり四月の末五月初、雨お得て移しうゆる事右に同じ、虫お殺す事は、たばこの茎お煎じ出し、其汁おしべ箒にてひたとうちひたせば、虫死る物なり、毎日かくのごとくして、虫悉く死し尽るお以てやむべし、又苦参の根おたヽきくだき、水に出しうちたるも虫よく死る物なり、刈取事も右に同じ、但すさのごとく切て、水に漬取上、にはに筵などお敷、其上に厚さ四五寸許に攤げ、むらなき様にして、わらごもにてもおほひ、ねさせ置、四五日の後よくねて、白くかびの少見ゆる時、取出し日に干し、俵か筵だてに入て、俵ながら分量お定めおきてうるべし、又よく干し上て、臼にて細かにつきてふるひ取、あらきお又つき、茎お去て藍玉に作り干堅め、斤目にてうる法もあり、又藍お作るべき田には、稲の跡にからしお栽べし、麦お蒔ば、跡少遅くあきて、二番藍の利少なし、鳥羽の辺にても、藍地は何れも蕪菁おうゆるなり、