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日本国風

松菜或書曰、延宝年中大明の僧松菜お持来、此菜高さ五七寸ばかり、蔓なくして地おはふ、葉女松の如し、又杉菜にも似たり、二三月の比瀹て酢に和し、或は羹に入て食す、其味甘しと雲て、珍奇の菜也とす、しかるに此菜古より吾伊勢国海浜におほく生じ、〈海草にあらず、水涯の沙土に生ず、〉古より羹にいれて食す、希物にあらず、総て草木陰陽の気雨露の恵お得て、彼方にも生じ、此方にも生じて同物有、しかるお不知此本、外国より来りて珍奇お玩賞するは、人常に視お不貴、心お珍異に馳るの所致なるべし、