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東雅
十三/穀蔬
葍おほね 倭名抄に、葍はおほね、俗用大根字、萊菔、蘆菔、蘿菔、皆葍之通称也、温菘はこほねといふと註せり、仁徳天皇の御歌に、おほねといふ事の見えしお、おほねは大根也と、日本紀釈にも釈しぬれば、おほねとは其根の大きなるおいひし也、李東璧本草には、爾雅註お引て紫花菘、俗呼温菘、似蕪菁、大根一名蘆菔、今謂之蘿蔔是也、菘とは葉名、萊菔とは根名也と雲ひけり、此説の如きは、葍といひ菘といふ、もと是一物にして、たヾ其根と葉とお呼ぶ、所同じからぬなり、倭名抄の如きは、温菘、萊菔、別に分載せて、温菘お呼びてこほねといひしは、これもまた其根の啖ふべきおもて、此名ありと見えたり、さらば今俗に細根大根などいふものヽ類にして、是又我国の方言にぞあるべき、こほねの義は不詳、〈葍おおほねと雲ひし事は、古より聞えて、爾雅註にも又大根といふ事見えたれば、其根の大きなるお雲ひしとは見えたれど、温菘おばこほねといひ、また骨蓬お呼びて、かはほねといふものもあれば、その根ふとき者お呼びて、ほねといひしにや、さらばおほねと雲ふ、其おといひしは、大の謂なるべし、たヾその詳なる事お知らず、〉