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大和本草
五/菜疏
蘿蔔 又萊菔とも温菘とも雲、和名於保根(おほね)、今国俗大根と雲、南北埴沙無不宜、民用に最有利益、群菜の第一とすべし、四時常にあり、夏生は秋冬の者に比するに、形同けれども味おとる、〈◯中略〉凡大根に種類多し、大大根(○○○)あり、是一時種蒔之力と土地の肥壌によれり、又種子も別にあり、水蘿蔔(○○○)、群芳譜雲、形白而細長、根葉但淡脆、無辛辣気、可生食、亦有大如臂長七八寸者、則土地之異也、摂州天満の邑の辺、宮〈の〉前大根と称するあり、形小にして長し、河州守口に是お以糟漬とす、大坂にも亦然す、冬月に根長し、或乾して遠に寄す、〈◯中略〉江陰県志載楊花蘿蔔曰、暮春時有之、形細長味松脆、今案にこれ三月大根(○○○○)と称するものなるべし、もち大根(○○○○)あり、是も三月大根の類也、葉高からず、地に付て生ず、根大にして味からし、三月大根もち大根此二品は、冬大根尽て三月に味よし、もち大根は其根土上に不出、是常の蘿蔔にかはれり、故にほりいり菜と雲、伊吹大根(○○○○)は、江州伊吹山に自生す、根短して肥大、其末鼠の尾の如く、小にして長し、味甚辛し、煮熟すれば甘し、葉は大根と同じ、ねずみ大根(○○○○○)とも雲、尾州に種る猶よし、他邦にも種子お伝へてうふ、尾州の産に不及、尾張大根(○○○○)、長鼠大根と不同、紫大根(○○○)あり、茎も根も紫色也、又葉に刻欠多く、味佳き一種あり、又葉似菊根小に、冬より夏に至て葉お食するあり、味よし、暹羅大根、其種自暹羅来る、京都にて近年隠元菜と雲、葉大に根紅に、内に赤白の暈紋あり、うずのまひるに似たりとて、うづ大根(○○○○)とも雲、葉の心も紅し、味甘し、冬栄ふ、これお芸薹と雲は非なり、夏大根(○○○)、生にて食へば脱血す、産前食へば小産す、