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農業全書
三/菜
蘿蔔大根は四季ともに種る物にて、其名も亦各替れり、されども夏の終り秋の始に蒔お定法とす、是あまねく作る所なり、其種子色々多しといへども、尾張、山城、京、大坂にて作る、勝れたるたねお求てうゆべし、根ふとく本末なりあひて長く、皮うすく、水多く甘く、中実して脆く、茎付細く葉柔かなるおえらびて作るべし、根短く末細にして皮厚く、茎付の所ふとく、葉もあらく苦きは、是よからぬたねなり、〈◯中略〉種子おおさめ置事、霜月の初め大根多き中にて、なりよくふときおえらび、毛おむしり、葉は其まヽおきて、一両日も日に当て、少しなびたるお、畦作りし、がんぎおふかく切、肥地ならば、凡一尺に一本づヽうへおくべし、もし瘠地ならば、折々糞水おそヽぎ、春になりて葉茎もさかへたる時、畦の中に柴か枝竹お立て、廻りにも竹お立て縄おはり、雨風にたおれぬ様にすべし、たおるれば子少し、うゆる時少日に当て痛る事は、花遅く付て余寒にいたまず、実り能ためなり、三月に至り九分の実りと見る時、刈て樹の枝につりおくか、又は軒の下につりて、さやのよく干たる時、折てとるべし、又刈てたばね、池川などに五六日も漬おきて、取上干てもみて取もよし、かくのごとくすれば、まきて後虫付ざるものなり、又霜月抜ていけおき、正月うへてたねとするも実りよきものなり、うゆる地の事、大根は細軟沙の地に宜しとて、和らかなる深き細沙地お第一好むものなり、河の辺、ごみ沙の地、又は黒土赤土の肥たる細沙まじり、凡かやうの所大根の性よき物なり、同じく地ごしらへの事、五月いか程も深くうち、濃糞お多くうち干付おき、其後度度犂返しかきこなし、埋ごえおもして、六月六日たねお下すべしと雲り、然ども大かた梅雨の後糞お打、ほし付、能々地おこなして蒔べし、凡土用中に蒔お上時とし、七夕盆の前後お中時とし、八朔お下時とす、地により所によりて、各其よき時節ある事なれば、是必一偏には定めがたし、早過たるは根ふとく入事ありといへども、味よからず、山中野畠などの外、屋敷内などにうゆる事は、前に雲ごとく、いく度も委しくこなし干おきて、凡八朔の前後大抵能時分なり、畦の広さ四尺ばかりにして横筋おきり、油糟、鰯、濃糞などお多く用ひて蒔糞とし、灰糞に和してうゆるよし、牛馬の糞のよくかれ熟したるも、土和らぎて根よくふとる物なり、鼠土にて蒔たる尚よく、九耕麻、十耕蘿蔔とて、麻畠はいか程も耕しこなす物なれども、是よりも大根畠は猶一入よく耕し、こなし、こしらゆる物なり、麻地九遍耕せば麻に葉なし、大根畠お十遍も耕せば、鬚少もなしと雲り、種子の分量の事、一段の畠に凡五六合お中分とすべし、但市町近くて、小なお間引うる所ならば、多くも蒔べし、さて二葉三葉の時より、段々次第に間引て、凡一歩の内に四五十本ある程お中分とすべし、是一段の畠に、一万二三千ある積なり、但大きお望むものは、猶うすく間引べし、