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徒然草

筑紫になにがしの押領使などいふやうなるものヽ有けるが、土おほねおよろづにいみじき薬とて、朝ごとにふたつづヽやきて喰ける事、年ひさしくなりぬ、或時館のうちに、人もなかりけるひまおはかりて、敵おそひきたりてかこみせめけるに、館の内に兵二人出きて、命おおしまず戦ひて、みな追返してけり、いと不思議におぼえて、日比こヽに物し給ふとも、見ぬ人々の、かくたヽかひし給ふは、いかなる人ぞととひければ、年来たのみてあさな〳〵めしつる土おほねらにさぶらふといひてうせにけり、