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剪花翁伝
三/五月開花
麒麟草 花の色黄也、形乙切草に似て英集て咲也、開花五月上旬より六月迄咲也、方日向されど茎短かし、又半陰に植れば、高一尺ばかりになれど、茎和らかなり、地土えらばず、肥淡小便、冬一二度、春芽出し前に四五度澆ぐべし、分株冬よし、〈◯中略〉弁慶草 花の色白く微紅お含めり、形ち至て少さく一房おなせり、開花五月より六月さかりて八月迄あり、方日向、地乾、土えらばず、肥淡小便、株春彼岸堀出して、古株お去て新芽お分植べし、すこし日お歴て三分交りの小便おそヽぐべし、長七八寸にもなる頃、巣虫生ずること至てはやし、よく心お配りて早朝に取捨べし、或は木灰汁、或は煙草の葉汁などそヽぐもよし、且弥地には巣虫も多く生じ、株も痩て育ちがたし、さて花枝の凋みし物、屋上に在て炎天に当るに、瓦上にておのづから芽お生じ、白根おあらはせり、いとつよきもの也、されば弁慶草の名うべなり、此葉は蚕豆(そらまめ)の葉に同じく、もみて吹ばふくるヽものゆへに、児女子の玩にせることあり、必弄しむることなかれ、若砂糖と合し嘗ば、失命となん恐るべし、