[p.0124]
東雅
十五/草卉
瞿麦なでしこ 倭名抄に本草お引て、瞿麦一名大蘭、なでしこ、一にとこなつといふと註せり、万葉集には石竹読てなでしこといひけり、瞿麦また石竹の名あるが故なり、今の如きは、田野に生ずるものお、なでしこといひて瞿麦の字お用ひ、人家栽るものおば、石竹の字お用ひて、其字の音おもて呼ぶなり、古にも石竹おば又やまとなでしこなど雲ひけり、なでしこといふ義詳ならず、とこなつとは其花の開く事、春より秋に至て、常に夏の如くなるおいふなり、〈藻塩草にとこなつ、万葉集に四時美とかけり、夏秋は歌によむ、春冬はいまだよまずと見えたり、されど霜さゆる朝のはらの冬枯にひとはなさけるやまとなでしこ、といふ歌の如きは、冬によみしと見えたり、〉