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古今要覧稿
菜蔬
みヽなぐさ 〈ねづみのみヽ(○○○○○○) 巻耳〉みヽなぐさ一名みヽなし、一名ねづみのみヽ、一名ねこのみヽ、一名ほとけのみヽ(○○○○○○)は、漢名お巻耳、一名苓耳、一名苓、一名〓、一名〓耳菜といふ、此草はいづれの国にても、河辺の堤、あるはこだかき山ぎしの、日あたりよき所に、冬のうちより地にしきて、むらがり生出て、その大なるものといへども、わづかに一尺には過ざるなり、茎ははこべらに似て、うす紫の色お帯び、それにつく葉は、ふたつづヽ相並びて、かはらけ菜に似て、少し狭くして長し、その色はこきみどりにて、茎にも葉にもうす白き毛あり、弥生の頃に至りて、そのくきのすえに、いさヽかなる枝おわかちて、いと小さき五ひらの白き花さきて、後に一分ばかりのあおき実お結び、そのなかにこまかなる子あり、扠此みヽなぐさは、もとより古の七くさのうちの、一くさにあらざるよしは、清少納言の見もしらぬ草お、子供のもて来るおといはれしにて明らけし、然るお壒嚢抄に載し、あしな耳なしまたすずなみヽなしとよみし二首の歌につきて、世の人彼是のうたがひおもおこしぬる事なれども、此歌は清少納言よりはるかに後の人の、かの草子にきくもまじれりと、けうぜし歌などあるによりて、たはむれに此草おも、七種のうちによみ入しものなれば、それにかヽはりて、古の七くさおあげつらふは、片腹いたきひが事なり、