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重修本草綱目啓蒙
十四/蔓草
五味子 一名嗽神〈輟耕録〉 紅内消〈医学正伝、何首烏紫荊皮にもこの名あり、〉 〓〈爾雅〉 六亭剤〈薬譜、輟耕録に亭お停に作る、〉 紅内藤〈証治準縄〉南北の異あり、朝鮮の産お遼五味子とし、又北五味子(○○○○)と呼ぶ、朝鮮は唐山の北に当る故なり、享保年中朝鮮より種お渡す、今人間に多く栽ゆ、葉杏(あんづ)葉に似たり、又木天蓼(またヽび)葉に似て鋸歯粗く皮あり、春旧藤より芽お出し、四五葉一所に攅り生ず、其苞内葉下に花お出す、嫩藤長ずれば葉互生す、三四月花お開く、白色にして微緑お帯ぶ、形荷(はす)花に似て至て小く、小銭の大さにして八九弁、質厚くしてかヽゆ、中に小紅毬あり、弁落れば其毬漸く大にして長く、下垂すること一二寸、円実多くつづる、生は青く熟は赤く、大さ南燭(なんてん)子の如し、秋後葉落ち藤枯れず、黄赤色にして微黒お帯ぶ、此実久お経れば色黒く五味備ること、此書に雲所の如し、此の種駿州に自生あり、一種まつふさ(○○○○)と雲あり、一名やはらづる、うしぶどう、まつぶどう、もちかづら、〈泉州〉やはらかづら、〈同上〉わたかづら、〈熊野〉泉州、紀州、播州、土州山中に多し、葉は楕形にして尖る、南五味子葉より至て短く、粗き鋸歯あり光沢多し、春新葉お生じ、冬枯ることは北五味子に同じく、花も亦同じ、実も亦穂おなして生じ、熟して黒色なり、故にうしぶとうど雲ふ、久く貯て潤あり、此草蔓おきれば松の気あり、故にまつふさと雲ふ、年久きもの藤ふとく皮厚して柔なり、故にわたかづらと雲ふ、これも亦和産の北五味子なり、南五味子(○○○○)はさねかづら、一名びんつけかづら、〈筑前〉とろヽかづら、〈石見〉びなんせき、〈伊州〉びじんそう、〈大坂〉びなんかづら、〈讃州〉くつば、〈勢州〉ふのり、〈土州〉ふのりかづら、〈日州〉おほすけかづら、〈筑前〉びらんじき、〈江州〉山野共に多し、市中にも種て籬とす、藤蔓甚繁茂す、葉冬お経て枯れず、形長く厚く莽草(しきみ)葉の如にして、光潤にして粗き鋸歯あり、冬春は葉背紫色、夏の末葉間に花お開く、形ち北種に同じ、其蒂長さ一寸余、端に数十実円毬おなして下垂す、大さ一寸許、北種の穂おなすに異なり、この毬お江州にて、さるのこしかけ(○○○○○○○)と呼ぶ、実は落霜紅(むめもどき)の大さあり、熟して赤色、乾して仍お赤くして潤なし、苦味多して五味備はらず、和の五味子と名け売ものこれなり、薬舗に販者数品あり、朝鮮五味子は形大して久お経る者も潤あり、色黒くして白きかびの如者あり、五味全備る、猶上品なり、本草彙言曰、生青熟紫、八月収採、曝乾則紫黒、今呉越建南等処亦有名、南五味子曝乾色仍紅、乾枯少液不若遼北、高麗色黒肥大且滋潤也、如入滋補薬必用北産者乃良と、漢渡五味子は実小にして潤なし、さねかづらと同じ、即南五味子なり、滋補の薬となすに宜しからず、然れども朝鮮よりは年久く渡らず、希に対州より少づヽ来ることあり、色微黒赤也、本草原始に、鮮紅色久して黒色と雲に合ず、今朝鮮と名け売る者数品あり、多は尾州より出るお朝鮮五味子と雲、是名古屋五味子なり、粒大に黒色潤ある者は朝鮮に異ならず、宜用ゆべし、又まつふさの実お売る者あり、通用して可なり、其粒小なる者は南五味子お煮て色お黒くし、味おつけ乾たる者あり、用ゆるに堪へず、増、南五味子に葉甚だ薄くして、小白斑ありて霜のかヽりたる如くなる者あり、冬に至て紅葉して美なり、故に花戸にてにしきかづら(○○○○○○)と呼ぶ、又一種尋常の者にして、葉に白斑ある者あり、又南五味子の茎お切て水に浸す時は粘汁出づ、これお以て束髪の用に供すれば膩垢の患なく、且つ髪お長す、