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草木錦葉集

牡丹実蒔并植作方牡丹の事は上方より下る品お植置たる事はあれど、実蒔其外作りたる事一切なし、予が父〈◯水野某父〉牡丹の実蒔して作りたるお、見聞し事どもお左に記す、牡丹実蒔は七月末頃、実黒く成たるお採、すぐに実少しなれば土器に入、多くあらば土ほうろくへ乾きたる土お誠に少し厚〈さ〉一分程入、其土の上へ実お程よく並べ、古板にても蓋おして〈かりまきにしたるの也〉水地にてなき場所お一尺五六寸掘て、右の土器お埋置、寒明て四十日程過掘出し、花壇にても畑にても土お少し高くして植る、其節土器の中にて根出あるゆへ、日の当らざる様にすべし、当所は寒気強きゆへ、初より地へ蒔ては根計出て芽出ざるゆへ、冽て枯る也、暖気なる土地にては、初より本蒔にして然るべし、生て後水肥度々懸、四月末頃より下肥二三度懸てよし、其年九月初頃分て植る、節一本立にして根元の芽おかきて植べし、分木等植るも皆同様なり、植替全き時節は秋彼岸より三十日過たる時植替時節也、夫より十一月迄よし、又は二月頃もよし、植替の節根に腐りあらば、竹べらにてこそげ、日に干て植る、又白きかびあらば水へ漬、しゆろだわしにて洗ひ、日にほして植べし、腐りたる根は多くあるとも残らず取捨、能あらひ植るに、少し根あれば気遣ふ事なし、九十月頃、木の皮お竹べらにてこそげ見改むべし、上皮の下に白く貝がら虫付あらば、こそげ落し、跡お柔らかなる藁にてこすり、生姜のしぼり汁お付て置べし、植土は、畑の並土一升、赤土一升、砂三合、真土の場所にては砂計少し入て吉、下肥お懸置て用ゆる花だん植肥は、寒中右三品の合せたる土お少し窪くして、其中へ人ふんおたび〳〵入〈懸るにてはなし〉埋置、腐りたるお其土にもみ合せ置、根の元近所お見計ひ掘、其土と取替る、秋冬の中かくのごとくす、其節根お改白くかびたるごとく見ゆる木は掘出し、根お前文の如く洗ひて植る、左に記すごとく、秋冬のうち懸にても吉、作方委くは十一巻目にあり、援には荒増お記す、摂州豊島郡池田の在に山方谷郷とて十三け村有て、諸木の苗木牡丹お接〓(つぎしたて)して諸国へ出す、株(だい)牡丹は丹波国、又は摂州の中高平にて〓(したて)、池田の郷へ送る、  牡丹接〓(つぎしたて)方当所にては株払底ゆへ、接〓心の儘に出来ず、若株木あらば接も吉、秋彼岸十日程後接時節也、穂の削様は少しはすに削て吉、細き株は穂も株もはすに削合す、是おいも接といふ、油紙にて包、二枚張位の風鳶の糸程なるしゆろ縄にて、接口おざつと結び置、花だんに植、穂共に土お懸、末つば鉢お懸置、二月中頃見廻りて、夜中鉢お取、昼は又懸、霜降様子なれば夜中も懸置、雨降らば雨に当、一度に鉢お取らず、欺し取にすべし、芽出たる後下肥二三度懸べし、上方にては瓦にて焼たる末鍔程の鉢、竪に巾一寸計窻のごとく切抜たる鉢おかける、当所は寒気強きゆへ末鍔鉢よし、正月末頃より右の窻明たる鉢お覆ふても吉、植替は九月初より二月迄吉、全くは九月よし、