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牡丹道しるべ

一痩木(廿六)にてもあれ、俄に長ぜしめんとて、糞などつよくする事よろしからず、雨の水取置て、日お経て少小便おまぜて、寒に入て根先とおもふ所にかくるよし、総じて有つかぬ木に糞お嫌ふ、膠なども少はよろし、一寒(廿七)お凌ぐに、馬糞お根におく人あり、寒国の雪ふかき所にては、さもあるべきも、陽国にてはすまじき事也、寒中に畳の表お切合て、根もとおよく覆たるよし、やはらかなる藁お敷てもよし、寒強く土いてあぐる所ならば、わらのうへにひらみなる石など置てよし、木に霜覆する事よろしからず、木健ならず、さくはなもよはし、寒暑ともに少はあつるよし、極寒極暑には蘆簾おかけてよし、寒国にて大雪など凌ぐは、格別の事なれば覆すべし、大雪に覆落て牡丹折る事ある事也、心得あるべし、一木(廿八)お洗ふ事、葉落て後、雨降に根のうごかぬやうに、柳の篦にて苔お落すべし、洗ふて後椿の実おくだき、布につヽみて油の出る程にしてぬぐふてよし、常の油にてもよし、木立うつくしくなりて、花なけれ共、一入〓と成物也、但さい〳〵につよくあらふは、痛にも成べければ、心おつくべし、あらはざる木は無奇麗にて悪し、一覆(廿九)は、油引たる障子は移りよく、はなも一入ひかりありて、能見ゆれども、日気油気おとおしおかして、花痛事なれば、いかヾと覚ゆ、何の覆にても、高く仕たるはよし、はなにちかきは悪し、遠く覆たるは花のたもち久しき物也、心お付べし、一花壇の引幕は、或は紫或は黒く、あるひは青きよし、赤白の二色はあしかるべし、