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玄同放言

山牡丹(○○○)〈山橘附出〉山牡丹は苑甫中に植うるものとおなじからず、我邦にはこれなしといふものあり、しかれども煙霞綺談〈巻四〉雲、遠州秋葉山の麓、いぬい川の上なる京丸といふ小村の片辺り、嶮阻なる山の半腹に大木二本あり、その一本は遠くより見る所凡四囲許、又一本は二囲もあらんかし、初夏に花開お見れば、その色白く径尺許りに見ゆる也、これ牡丹なりといへり、ちかき比その村なる人に問けるに、これまぎれもなき牡丹也といへりとしるせり、鈴木素行神農本経解故〈巻八〉雲、本邦牡丹無山生者、惟遠江州山中有之雲、未詳といひしは、彼京丸なる山牡丹お仄に伝へ聞きたるなるべし、按ずるに謝肇浙雲、〈五雑俎物部二〉余在嘉興呉江、所見牡丹乃有丈余者、開花至三五百朶、北方未嘗有也、かヽれば唐山にも牡丹に巨大なるもの罕にはありと見えたり、我遠江なる山牡丹も、そら言にはあらぬなるべし、