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牡丹道しるべ

一(卅二)牡丹の苗牙お矢と名付る事、人毎にいへども、いかなる故といふ事おしらず、或人雲、生発の気おさして矢といふにやと、しからば矢といふ名は余のもろ〳〵の苗牙に通ずべしと、おもふに牡丹の子の親木のもとより真すぐに生出たる、其形恰もよく矢頭(じんとう)に似たるゆへに名付る成べし、げに似たる物お能ぞ思ひ出たるとおかし、それ哲人の物に名付る事、其形おもつてする、此類おほし、猶実ばへのは矢といはず、一(卅三)地中にありて出はなれざる牙お白子といへり、少にても根あれば切はなし、植てよくつく物也、牙かくるヽほどに、細成砂おかけて、底なき曲物おきせ、寒中に霜雪お凌ぎ、曲物の中いてあがらぬやうにして置也、春快葉おする物也、他に遣す時、白子などありて、残置時のためなり、