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農業全書
十/薬種之類
芍薬芍薬は牡丹に相つぎ、和漢古今ともに、世人花お賞するものなり、殊さら近来都鄙其花お弄ぶ事さかんにして、年お追て其花しな〴〵多くなれる事いふばかりなし、薬種には花の一重なるお用ゆ、白お白芍薬と雲、赤お赤芍薬といふ、医家に白芍薬お多く用ひ、赤は隻十にして二三も用ゆるとなり、白お多く種べし、是も山に自然と生たるが性よけれども、又里に種るおも用ゆべし、種る地は、よく肥たる砂地に、ちと土のまじりたるよし、真土も肥たる地の、ねばりけなきはよし、地ごしらへは、粉糞、熟したる馬糞、或やき糞などにても、其地味により見合、是おまじへ、其上に熟糞おかけ、よく乾し、度々うちかへし、こなしさらし置て種べし、種かゆる事あらば、八月末九月始、其年の節によりて考へうゆべし、子お種る法、地お右のごとくこしらへ、畦の間一尺ばかり、其上に深さ三寸程に筋おほり、能糞土お敷、子お種る事、一寸余に一粒づヽ、付合ぬ様にちどりあしに種べし、又肥土にて七八分程に、種子おほひすべし、生て後夏は日おほひおし、冬は雪霜のふせぎおし、二年めの九月の比、又別に能地おしたヽめ置て、畦の間お二尺ばかりにして移し種べし、四五年に至ては、其根大になり、薬種と成べし、十月の初掘取、よく洗ひ日に干、かたくなりたるお収置、薬屋に売べし、但中以下の地には種べからず、山下の里猪鹿多く、穀物は作り難き所に肥地あらば猶多く作るべし、