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草木六部耕種法
四/需根
芍薬牡丹お作る法芍薬 山中自然生は、性味強くして上品なることは論ずるに及ばず、然れども入用の甚多き薬物にて、勿論自然生にて用の足べきに非ざるお以て、種子お蒔き苗お為立て、此お作らざることお得ず、凡芍薬苗お為立る法は、先墳土或櫨土の日当り能き場処お撰び、新墾故畑に拘はらず、牛馬の力お用て畑耕し、此に馬糞お入ること、一畝十荷の割合にして能く把交置、然して後に芍薬の実の能く熟し、黒色に成たるお採り、直に此お右苗代に蒔て、其上に小便灰一升、細土二升お混合して、厚三四分程覆土すべし、容易には芽の出ざる者なり、時々盛養水お灑べし、且寒中は馬糞お厚く其上に掛け置くお良とす、翌年も能く他草お耘り、秋に至て先其植地も、墳土か櫨土の日当り能き場処お、新墾故畑お論ぜず、牛馬お用て幾遍も犂返し、且厩肥の能く腐れたるお沢山に入れて、二尺許深に軟膨(ぼやかし)置、右苗代に為立たる芍薬の苗お、二尺隔に一坪九本づヽ植付べし、既活著たらば能く他草お耘り、時々盛養水お灑ぎ、五年許も右の如く養ひ置くときは、根能く蔓り肥て、一株数十本の懸根垂下る者なり、五年目の冬十月初には悉掘り採りて、其掘跡に厩肥お沢山に入れ、能く軟膨置て、他物お作るとも、又芍薬お植るとも、其意に任すべし、芍薬は第十番の気候に応合する草なれども、五六番より第十五番以下の寒国にも、能く蕃衍する者にて、入用極て多き薬物なり、宜く多く作るべし、芍薬は他の作物とは其趣異にして、五年の間は植たる侭にして、掘り採ることの無きお以て、甚事簡にして人手の掛らざる者なり、故に土地広く百姓少き国に於ては、別して利潤多し、能く培養お厚くして、此物お作るときは、五年間には一坪の地より十斤以上の根お出す、一坪十斤あるときは、一段三千斤なり、此お金一両八十斤に売と雖ども、其価金三十七両二歩お得べし、此お五年に割るときは一年七両二歩に当る、人手の掛らざる作物にて一段年々七両二歩の金お得ることなれば、利潤も亦大なり、国土お領する者は、察せずんばあるべからざる所なり、