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重修本草綱目啓蒙
八/山草
黄連 やまくさ〈延喜式〉 かくまくさ〈和名抄〉 今は通名 一名滴胆芝〈輟耕録〉 宣連〈方書、宣城黄連なり、〉 川連〈同上、川省の黄連なり、〉 練連〈同上、上品の黄連なり、〉 浄黄連〈遵生八揃〉 増、一名脚連、〈証治準縄〉 宣黄連〈附方〉加州に産するものは、形肥大にして根頭三五枝にも分れて、鷹爪雞爪の形の如し、即鷹爪黄連(○○○○)、雞爪黄連(○○○○)と名くるものなり、今薬舗に加賀黄連と称するもの、多くは越中の産おも総じて雲ふ、昔年は舶来なし、明和年中に渡る者最上品にして、加州の産より肥大なり、又古来本邦よりも唐山へ渡せしこと、大和本草に雲へり、本経逢原に産川中者、中空色正黄、截開分弁者為上、雲南水連次之、日本呉楚為下と雲へり、薬舗にては加賀お上とす、仙薹の産は加賀に次ぐ、毛なくして短く、五分許あり、薬舗にてつぶ〳〵でと雲ふ、皮色黄なること加賀に同じ、越前より出る者は二分許、連珠の形にして鬚なし、又越後美濃よりも出す、又江州日野より出るものは、形細くして毛なく、長さ四五分許あり、又丹波より出る者は、最肥大なること加賀と同して多毛なり、雞爪もあり、羽州の庄内より出るお蔓様(つるで)と雲、形細くして、長さ二三寸、連珠にならず、佐渡より出るは、外皮黒お帯び、内は黄色、長さ四五分より一寸許、播州の笠形山より出るものは、肥大にして丹波の如し、此外和州紀州よりも出す、越中より出るには数種あり、つる黄連(○○○○)もあり、凡そ黄連は形の肥瘠に拘らず、質実して黄色の深きものお佳なりとす、形肥大なりと雖ども質虚し、或は青色或は黒色お帯るものは、みな下品にして用るにたへず、加州及び奥州の南部津軽の黄連は菊葉也、即蘇容の説に、葉似甘菊と雲ふもの是なり、凡そ黄連の葉は厚くして〓く光あり、冬枯れず、正二月先づ花茎お出す、高さ三五寸、其末に数花互生す、大さ三四分、外に五の長弁あり、内に十の短弁あり、色白し、又黄色お帯るものあり、紫色お帯るものあり、花の中心に小青莢あり、周りに黄蕊お布く、花終りて新葉お生じ、旧葉枯る、花後に米粒の大さなる莢お結ぶ、凡そ一花の後十許の小莢円に並びて車輪の如く、その大さ銭の如し、莢の中に黄色の小子あり、熟すれば自ら落ち、明春嫩苗お生ず、又別に一種大葉黄連(○○○○)あり、この葉は菊黄連(○○○)より小く、岐多くして芹葉に似て大なり、丹波及城州愛宕山の渓間に生ずるもの皆この種なり、又長葉黄連(○○○○)あり、大葉黄連に似て長し、若州に産す、又芹葉黄連(○○○○)あり、形も大さも芹葉の如し、和州畝日山に生ず、又畑葉黄連(○○○○)あり、芹葉黄連より細かなり、江州伊吹山、比良山、城州大原の寂光院、及び鞍馬山にあり、是蘇容の説に葉如小雉尾草と雲者なり、小雉尾草はたちしのぶなり、以上の黄連の花実の形皆同じ、又一種五加葉の黄連(○○○○○○)あり、城州天台山の横川、又鞍馬山、及大原の医王谷等に多し、葉は五加の葉の如く、五葉一蒂なり、大さ銭の如し、故に銭黄連とも、円葉黄連とも雲、花戸にて梅花黄連と雲ふ、此根は細き鬚にして処処に小根連珠す、大さ一分許、故に又つる黄連と雲、苗は苔の如く地に布て生ず、その形他の黄連に異なり、山中にては四月に花お開く、市中にては正二月に葉に先つて一茎お抽づ、長さ二三寸、その端に一花お開く、五出にして梅花の形の如く、大さ三四分、内は白色、外には紫色の細条あり、蘂は黄色なり、花後に小莢数多く円に連る、内子は罌粟米(けしつぶ)より大なり、凡て黄連の実皆同じ、唯葉異なるのみ、葉大者根亦大に、葉小者根亦小也、又三つ葉黄連(○○○○○)と雲あり、形は銭黄連に同くして三葉なり、花実根倶に異ならず、一名くまで黄連、〈野州〉かたばみ黄連、〈同上〉加州、奥州、野州、甲州に産す、