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閑窻自語
瑠璃おだまき草事松前よりちかき海中に、小島といふ所あり、その所におだまき草〈楼斗菜(○○○)〉といふくさの、るりの色にさけるあり、そのたねお安永中に、たかの入道中将隆朝臣のもとへ、松前守護のものヽふよりおくりしおうえて、近ごろ世に多くなれり、故主殿権助佐伯職朝臣の第に、蘭山といひて博識のものあり、このくさ世にしれぬうちに、見せける人のありしが、いづかたよりきたれるやらん、めづらしき草なりといふ、たづぬる人しらずといへりければ、つら〳〵なほ見て、この色は海辺に生ずるなるべし、花の色お見るに、東国のものならんといへり、その道おえし人の見るところ、いさヽかたがはざりけりと、見せし人大に感ぜしなり、