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草木六部耕種法
三/需根
我述等諸薬物お作法烏頭も野土に応合することは、鬱金、莪朮等と同じけれども、其性の相反すること氷炭の如く、気候第二十番以下の寒地に繁栄する者なり、自然に陰地に生じたる者は、性気極て強くして、其芽お食ときは即死す、故に奥羽両国にて此お谷不越(たにこさず)と名く、即此お食したる谷お出こと能はずして死するの謂にて、俗に鳥兜(とりかぶと)と呼ぶ草是なり、即蝦夷国附子(ぶす)と名る者なり、其花深紫にして鳥兜の如し、又漢種川烏頭あり、其葉手お開きたる形に似て根長く、三四寸に及び、疣疸あること蝦蟇脊の如し、又一種花形菊に似て淡紫と白色なると有り、俗に兜菊と呼ぶ、根円長く末尖れり、俗に兜菊と呼ぶ者は、此種類中の上品なり、宜多く作り附子お製すべし、此お植る法は野腐櫨(のづち)お畑に墾き、細耕(こまかにうち)て木葉枯草塵芥等お耕錯(きりまぜ)て、前年秋より能く腐朽置て、春分頃に至り、一歩三条に畦お作り、種子根お八九寸間に、五目に一箇づヽ植べし、芽出茎長に従ひ、漸々鍬お以て行壟(さく)お把加(きりかけ)て、根お肥太するの法お行ふときは、夏秋お経るの間に、大に能く肥満(ふと)る者なり、其年十月末に、掘採も一歩一斤の根お得べし、二年目に掘採るとき、其根一箇秤量一両余の大に至る、且其蘆頭際に数箇児根お生ず、雪降ざる前に悉く掘採て、親根おば塩蔵にして附子お製し、児根は土中に埋置、明春又其故畑お耕し分植べし、山北林陰等日映の乏き野土は、殊に能く毒気の強き上品お生ず、抑此物は暖地にも生長すれども、暖国に作りたるは、根細く毒弱くして薬用に勝ざる者なり、此物お法の如く作るときは、隔年に一歩二斤余の大附子お生ず、然れば一段六百斤にて金一両五十斤に粥と雖ども、年々一段六金づヽの産業なり、山国陰冷にして作物の出来ざる地に植て、骨おも折ず、年々一段六金宛の産業は、其利潤亦薄からず、土地お領する者宜く熟察すべし、