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古今要覧稿
草木
あけびかづら 〈通草〉あけびかづらの実より、油お搾り用る事は、信濃の国、出羽の国には、此あぶらにて物おゆびき食す、灯油はさらなり、その油清潔にして上品なり、しかれども多く食すれば、瀉すものなりといへり、この藤蔓は通薬なれども、其実は多く食しても瀉下する事なくして、油には大便閉に用ひて佳なるべしと〈佐竹壱岐守医冠木精菴〉の説なり、あけびかづらは処々に自生多きものなれども、年お経し蔓にあらざれば、実のらぬものなり、花は年おへざるつるにも開く、花信は清明の比よりひらく、その色淡紫紅にして三弁の小花、さがりあつまり開く、その小花と同じ形状にして、大さ寸許のものあり、この大輪の花は小花のかたより濃紫なり、この種は実お結ぶ花なれども、年お経し蔓にあらざればみのらず、又淡碧白のものあり、その形状種類は、本草綱目啓蒙に詳なれども、出羽の国には、実も大にして、四五寸許のものあり、その色も紫色にして美なるあり、この紫色に染なして美なるものは、味美なりといへり、凡通草に三葉五葉の別あり、五葉のものヽ実は、熟して皮われ、白瓤あらはるヽものといへども、其皮褐色少は紫色お帯れども美色ならず、いまだ三葉のあけびの実お結びしお見ざれば、三葉のものにやと問ふに、過し事にて葉の三葉五葉のことは、わきまへずといへり、〓は黒沢にして升目のごとし、破れば内に白肉あり、即油お取ものなり、〈◯中略〉和名抄〈蓏類〉郁子の次に蔔子、〈和名阿介比〉又同書〈葛類〉通草〈和名阿介比加都良〉と訓じて、実と蔓とお別条となしたれば、古は専ら食用とせしものなり、