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農業全書
四/菜
罌粟けしは花の白き一重なるが実多くかうばし、料理には是お用る物なり、又花紅紫色々あり、是お米囊花と雲て、詩にも作れり、花殊見事にて、菜園にうへて猶愛すべき物なり、されども千葉の色あるは実少なく、子の色も雑色にて料理によからず、蒔時分の事、秋の半いか程も地お細かにこなし、中分に肥し、畦お平らかによくならし、八月半比蒔べし、地お少たヽき付て、薄く蒔たるがよし、たねお灰と沙に合せ、筋うへにても、ちらし蒔にても、各心にまかすべし、種子おほひはするに及ばず、わらはヽきにて、さら〳〵とたねのかたまらざる様にはきおくべし、生て後芸り間引、中お度々かきあさり、ふとるにしたがひて、段々正月までまびきて菜に用ゆべし、又雲若むら生せば蒔つぐべし、小きおへらにてほりて移しうゆるも生付物なり、人糞など多く用ひて、余り肥過れば、葉に虫付て実らざる事もあり、冬中よき程に見合せ、糞し培ひ、春雨の中たおれぬ程にすべし、肥たる沙地におほく作りて、利あるものなり、〈但花の咲ころ、葉に虫の付事おほきゆへ、よく心お付、もしむしの付べきならば、いたまぬやうに〉〈葉お切さるべし、むしおほく出来ては葉おくひからし、後には実おもくひつくし、其むしなおも其ほとりのうへものに害おなす事はなはだおほし、ゆだんなく葉おきりてさるべし、〉