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農業全書
二/五穀
大豆大豆色々あり、黄白黒青の四色あり、〈此外つぶの大小、形のまるき平き、其外さま〴〵多、又つる大豆あり、〉又かき色なるもあり、此内黄白の二色お、夏秋の名おつけて専作る事なり、赤土は大豆に宜しとて、豆の類はあか土に取分よき物なり、種る時分の事、三月上旬お上時とし、四月上旬お下時とす、秋大豆は五月中旬より、六月上旬まで種べし、但其年の節に随て、五日十日は斟酌あるべし、極て肥地の深きおば好まず、でき過て実りよからず、又地のこなしの余りくはしきもよからず、先大かた夏大豆は麦の中にうへ、秋は麦跡にうゆるおよしとす、麦の中に筋おふかくかき、一段に凡種子五升まくお中分とす、是も肥瘠により、やせ地は少あつく蒔べし、又瘠地に大豆おうゆるには、灰お用てうゆべし、豆にはならびなきこえなり、いかにもむらなく蒔て、土お覆ふ事は深くすべし豆は極熱の時分、底土のしめり気に根先とヾきて、其うるほひにより実る物にて、地浅き沙地は、旱のつよき年は必痛み枯る故、蒔付る時、其心得して少深く蒔べし、さて中うち芸る事二度、但麻は地お芸り、豆は花お芸るとて、麻は草のいまだ目に見えざる内に早芸り、豆は花お見ても、猶芸りてくるしからざるものなり、又豆は初め終り地のこしらへより、中うち芸るに至るまで、手入の余り委しく念比なるは、却てよからぬ物なり、豆のにた蒔とて、他のうへ物にかはりて、大豆ばかりはぬれ土に蒔たるがよく生長し、蒔て其まヽよく生るものなり、又大豆お毎年同じ地にうゆべからず、いや地お嫌ふものなり、蒔時分其所のよき時節に蒔合せざれば、実りよからぬ物なり、時分よく蒔たる豆は、猶よくさかへ、枝も多く付て、足もとよりさや多くつき、節の間もしげく、よく実るものなり、又早過たるはつるとなりて、さや小さく実少し、又時におくれたるは茎短く、本にさやならず、又大豆は槐に生ずとて、えんじゆの木のさかゆる年が、豆のよき物と、農書に記せり、凡蒔て百廿日にて刈収る物なり、又夏大豆お蒔時分の事、杏の花ざかり、椹の赤き時、又四月雨の後、大小豆お蒔べし、ともによし、秋大豆お夏至〈五月の中お雲〉の後廿日ばかりの比種べしとも雲り、たねにより所により、早晩段々ある事なれば、一偏には定めがたし、第一は其所のためし、心おぼえして、いか様ちと早きおよしとす、中うちする事、大豆生出て、甲お戴て出る時、深くうつべからず、長じて後中うちせば、根に土おうちおほふべし、旱の時根の下に日のとおらぬためなり、同じく刈時分の事、大豆は場(には)に熟すとて、末のさやは少々青く、下は大かた黒くなりたる時、晴天お見てぬきとり、たばねさかさまに立て、根おからせば、さや早く枯る物なり、よく干たるお見て打て収むべし、但おほく作るものは、そばや胡麻お干ごとく、やねおふく様に下地お作り、日のよく当るやうにふき置て、よく干たる時打てとるべし、積置て久しく日数おふれば、損ずる物なり、もし又日和のあしきに取込てつみ置ば、くさる物なり、此時はこき落して攤げおくべし、又豆は花の咲時、旱おにくむ物にて、花黄色になりて根こがるヽ物なるゆへ、根の土のかはかぬ様に、兼て心得してうゆべし、又大豆お区(まち)うへする法は、畦作りし穴お深さ広さ各六寸ばかりにほり、糞と土とかきまぜおき、うゆる時、其穴の中に水多く入れ、水尽て後、能程に糞土お入れ、豆お三粒其中にうえ、又右のこえ土お上におほひ、手にておし付、土と思ひ合せ置べし、但此区と区との間、各一尺余りにすべし、かくのごとくすれば栄へふとる事、常の三倍もあるものなり、土地のすくなき所にてする法なり、総じて此まちうへは、手間入て多く作る事成がたければ、がんぎお深く切糞し手入およくし、薄くむらなく作れるは、区うへとさのみ替る事なし、又杖のさきにて、五七寸に一つ二つづヽあなおつき、一二粒づヽうへ、灰にておほひ置たるも、取み多し、二月蒔て四月はや実るあり、是お梅豆と雲なり、煮て菓子によく、料理にめづらしき物なり、部の近く、又は城下など、凡て人多き大邑に遠からぬ所にてはよく作り、青豆にてうるべし、又大豆お芸る時、雨露のあるおりには、必手お触べからず、葉に虫の付ものなり、