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庖厨備用倭名本草
二/菽豆
倭豆(へんつ/あちまめ) 倭名抄にあちまめ、多識篇同じ、又雲ひらまめ、元升〈◯向井〉曰、西国俗にはしやうまめ(○○○○○○)と雲、八升豆と(はしやうまめ)書り、此豆種てよくさかふ、一粒うふれば豆八升おとる、故に此名お雲といへり、又破墻(はしやう)豆とかけり、此豆墻の本に種れば、よくつげりさかへて、垣にかヽり、垣もたはみかたぶくばかりに盛(さか)ふる故に、破墻豆と名お得たりと雲、本草註おみれば破墻豆なるべし、考本草、人家の籬垣に、三月に種お下す、蔓生して延纏としげりはびこりまとひて、籬垣おおほふ、故に沿籬豆と雲、其葉の大さ盃の如くにて、円にして尖あり、其花は小蛾の如し、翅尾の形あり、其莢のなりあひ十余様あり、或は長く或は円く袖の如く、或は竜爪虎爪のごとく、或は猪耳刀鎰の如く、種々同じからず、皆累累として枝おなす、白露の節の後、其実更に繁衍と多し、嫩き時は蔬食茶料にす、老枯て子お取り収む、煮て食して香味あり、子は黒白赤斑の四色あり、一種莢堅きは食すべからず、其子は粗円にして色白し、薬に入べし、是白藊豆なり、