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農業全書
二五/穀
〓豆扁豆、又たう豆とも雲、民俗には八升豆とも雲、甚多く実り、一本に八升もなると雲ならはせり、又天竺豆近来渡る、南京豆隠元さヽげなど雲も、此類なり、扁豆に黒白の二種あり、白きは白扁豆とて、薬種に用る物なり、凡此類甚多し、其中に南京豆極めて味よし、秋の末冬の初、おほく実り、莢ともに、〈但莢のふちの筋お去ば、実入て後もよし、〉日用の食物に用ひて、益多き物なり、農家多く作るべし、此扁豆の類は、其根さへ肥地によくはびこりぬれば、其つるは民家の軒、屋の上にはひ、或籬にはヽせ棚おかまへてまとはせ、又屋敷境の嶮き岩ばな、さかしき片岸の野山、枯たる立木などにもはひひろごり、都て農家無用の地に生長し、みのり多くよろしき物なり、此類の豆うゆる時分の事、三月の節たねお下し、少し土おかけ、灰お以ておほふべし、土おおほくかくべからず、芽立三四寸も出る時、分て種べし、猶種付にするは猶以て宜し、