[p.0284][p.0285]
重修本草綱目啓蒙
十四/蔓草
葛 くず(○○) まくず(○○○)〈古歌〉 くぞ(○○)〈南部〉 かづね(○○○)〈筑前〉 いのこのかね(○○○○○○)〈備後〉 一名走根梅〈薬譜〉 麪葛〈鎮江府志〉 葛藤根〈薬性奇方〉 土瓜〈郷談正音〉 黹綌草〈本草原始〉山野倶に多く自生ありて甚だ繁延す、唐山には家園にも栽ゆ、これお家葛と雲ふ、故に野生の者お野葛と雲、又毒草に野葛あり、別物なり、混ずべからず、是は冶葛と音相同じ、つたうるしのことなり、鉤吻の釈名の註に詳なり、本邦には葛お家園に栽ゆることなし、皆山野の者お採る、其葉互生す、円尖なる三葉一帯にして、眉児豆(ふじまめ)葉に似て大なり、梢葉は毎葉三尖にして小豆葉の形の如し、蔓と共に褐毛多し、肥たる者は葉大さ尺に過ぐ、和州芳野山の産別して肥大なり、七月梢葉の間に花穂お出す、長さ三五寸下垂す、花は豆の花に似て紫赤色、上代は名花なく、此花おも賞せしにや、万葉集秋七種の歌にあり、花後莢お結ぶ、黄豆(しろまめ)の葵に似て狭薄褐毛多し、江州水口及高宮辺にて蔓お採り、水に漬し皮お去り織て器となす、ふぢごうりと雲、根おすりしぼり水飛して葛粉とす、城州にては和州の芳野葛お上品とす、甚潔白なり然れども近年偽雑多し、若州の熊川、及他州の産は色潔白ならざれども偽雑なし、葛粉お和方書に水粉と雲ふ、唐山にて水粉と雲ふは、鉛粉の一名にして京おしろひなり、葛根薬舗に生乾とさらしと二品あり、さらしは白色にして粉お帯ぶ、生乾は黄褐色薬用に入べし、唐山にては生葛おも用ゆ、故に乾葛と雲ふて分つ、