[p.0287][p.0288]
日本山海名産図会

葛(くず) 〈葛穀(かつこく)一名鹿豆(ろくとう)〉蔓草なり、根お食、是お葛根といふ、粉とするお葛粉といふ、吉野より出すもの上品とす、今は紀州に六郎大夫といふお賞す、もつとも佳味なり、是全く他物お加わへざるゆへなるべし、〈◯中略〉蔓は水に浸し皮お去り、編連(あみつら)ねて器とし、是お葛簏(ふぢごり)といひて水ろ(みなくち)に製するもの是なり、葛籠は蔓おつらねたるの名なり、葛布は蔓お煮て苧のごとく裂紡績(さきうみつむぎ)て織なり、詩経に黹綌(ちげき)と雲は、黹は細糸、綌は太き糸にて、古中華に織もの、今の越後縮のごときもありと見へたり、くずと雲は細屑(くづ)の儀にて、水粉につきての名にして、草の本名は葛なり、ふぢは即鞭(ぶち)なり、古製是おもつて鞭(むち)とす、故に号、喪服お葛衣(ふぢごろも)といふは、葛布なればなり、