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沙石集
二上
仏舎利感得人事法華には舎利弗もしんお以て入れりと説き、しん無き者おば一闡提と名て、仏にならぬ者といへり、或在家人山寺の僧おしんじ、世間出世ふかくたのみて、病事も有れば薬までも問けり、此僧医骨もなかりければ、よろづの病に藤の疣お煎じて、めせとぞおしへける、しんじてこれおもちふるに、よろづの病いへずといふことなし、或時馬おうしなひて、いかヾ仕るべきといへば、例の藤の疣おせんじてめせといふ、心得がたけれども、やうぞ有覧としんじて、あまりに取尽して、近近には無かりければ、山の麓お尋けるほどに、谷のほとりにて、うせたる馬お見つけてけり、是も信のいたす所也、