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続江戸砂子

雑樹亀戸の藤 〈天神のみたらし〉 佃の藤 〈住吉の社〉 山王の藤 〈上野〉 根岸の藤 〈円光寺〉増、伝妙寺の藤、小日向清水谷 むかしは名におふ藤也、今は老木となりて英もみぢかくさして見所あらざれども、名木のむかし残りて温ぬる人多し、増、戻り藤、 浅草熊谷稲荷社の傍に有、享保始のころ、境内弁天山の水石お畳の時、此藤お池の辺へはこび植るに、ほどなく枯たり、時に熊谷社の堂司見性坊夢みらく、我が藤おいかにしてか他へ植るのいはれなし、すみやかに元の地へかへすべしといふ事、両度におよぶ、よつてその枯たるお以前の所へかへし植るに、幾ほどなく活て、枝葉さかへ、青葉お見せたり、此藤今に存す、〈◯中略〉  四時遊観藤 亀戸天神宮 楼門の前御手洗の池の上左右に棚あり、紫白のはなぶさ、池水に影おしづめて、底さへ匂ふけしき也、〈◯中略〉藤 佃島住吉社 神前に方六十余丈棚、枝葉つらなり、一向にそらおとぢて、木の下闇の陰茶店多く酒肴お貯ふ、花は紫白根は二もとあり、摂州の住吉も藤の名所也、〈◯中略〉藤 上野山王社 鳥居〈常のとりいと異也、さうがうの鳥居と雲、〉の前に棚有、わたり二十間に及ぶ、紫白英おたれてなヽめならず、〈◯中略〉藤 根岸の里宝鏡山有 円光寺と雲曹洞の禅林也堂のうしろに弁天の宮あり、その池辺にそひて三十余間の棚、紫白の色おあらそふ、