[p.0300][p.0301]
花月草紙

藤の花はちかうみればうつくしけれど、余りにちかづくれば、かほりはまたよからず、はなやかにさくかとみれば、末まではひらき得ず、ことにおのれひとりさかりおみすることかたく、かならずこと木によりて、たけ高き勢ひみするが、そのよりそふ木の枝もはも、みえぬ計におほひぬれば、その木もつひにかれぬるにぞ、われひとりの心ばへみえて、木高く咲きみちぬとおもへば、嵐などにあふとき、もとよりかれし木なれば、うちたふれてけり、高うみえしはなもつひにくさむらにうづもれて、またみる人もなし。代々の小人の情態にもたとへつべしと、ひとのいひけり、