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重修本草綱目啓蒙
十三/毒草
大戟 はやひとぐさ(○○○○○○)〈延喜式〉 はまひとぐさ(○○○○○○)〈同上〉 たかとうだい(○○○○○○)〈江戸〉 一名破軍殺〈輟耕録〉 勒馬宣〈古今医統〉品類多し、古渡に綿大戟紫大戟あり、綿大戟は根柔にして揉めば綿の如し、径り六七分、黄白色味簽辛、大に咽お腫らすこと、時珍の言ところの如し、天明年中他の薬中に混じ来ることあれども、今は甚希なり、紫大戟は根黒赤色、これも揉めば綿の如し、味微辛咽お腫らすに至らず、綿大戟より緩なり、故に上品とす、杭州紫大戟為上と雲ふ是なり、享保以後渡る者は、根形細き甘草の如し、外皮紫赤色、味澀くして簽からず、偽品たるべし、天明の比より絶て渡らず、故に他の薬中より柬び出して売る者、皆細長にして多くは皮のみ、紫赤色、裏面は浅褐色、味微渋にして薟からず、是真に非ず、薬店に唐の大戟と雲、或は雌(め)大戟と雲ふ、和の大戟と称し売る者に、偽品あり、野苧麻根お以て偽るあり、黄白色にして堅く折れ易く、味薟からず、これお粉大戟と雲ふ、又あかその根お以て偽るものあり、皮淡赤色、内白く薟味なし、皆用ゆるに堪へず、薬用には唐種及土大戟お用ゆべし、岩大戟も佳なれども皆薬店に出ず、のうるしお伏見の大戟と称して売る者あり、これは草䕡茹にして、大戟に非ざれども、薟味ありて相遠からざる者故、野苧麻根の偽お用ゆるにはまさるべし、唐種の大戟は享保年中に渡る、春宿根より苗お叢生す、円茎高さ四五尺、葉は草䕡茹より狭細なり、色深緑微黒にして中道白し、葉お断てば白汁お出す、夏に入て茎梢及葉間に小枝お抽で、花お開き実お結ぶ、形状草䕡茹に同して小なり、隻花下の葉黄色に変ぜず、秋深て苗枯る、たかとうだい東都には林下道傍に多し、形状唐種に異ならず、微毛あるもあり、倶に茎微短し、城州長池辺山中にも亦あり、是土大戟なり、江州鹿飛辺に小葉の大戟あり、伊吹山にも多し、方言ちヽもどき、形状たかとうだいに同して小なり、苗高さ七八寸、葉小にして芫花葉の如し、これお鹿飛大戟と雲、人家に移し栽れば大になりて、たかとうだいと同じ、花実も亦同じ、又一種海辺の石間に生ず、岩大戟と雲ふ、淡州、土州、筑前、紀州、播州等の国に産す、八月旧根より新芽お叢生す、其色紅紫観るべし、葉はのうるしより小にして狭長、白緑色にして周辺紫色なり、寒き時は葉背紫色、茎は紅紫色、後淡緑色に変ず、高さ一二尺、春花実お生ず、のうるしに同じ、秋に至て苗枯る、ついで新葉お生ず、根の形のうるしに同じ、皮微紫色晒乾して折れ易し、これ紫大戟一名紅芽、大戟の一種なり、薬にはこれお用ゆべし、然れども未だ薬家に出ず、