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冠辞考
九/麻
まさきづら〈◯中略〉真さきづらの事は、万葉にいや常しきにとよみ。多薯蕷とも書つれば、常に栄る葛なるはしるし、さてその常葉なる故に真栄葛(まさきかづら)と雲お、略きてまさきづらとはいふ也、かの真さか木てふも真栄樹の意なるお思ふべし、何となれば古へ神事にも公事にも、言(こと)あげするには、常磐に堅磐になど讃称(ほめたヽへ)る物多し、そのおりは木おもかづらおも常葉なるおもてすめれば、そおほめたヽへて、真栄樹といひ、真栄葛とはいへる也、且神社によりて松杉橿などおさか木といひて、一種ならぬおおもふに、かづらも常葉なるおば、すべて真栄づらといふべし、然ればいと古へはまさきかづらも、神社によりて用いなれしは、さま〴〵有べきが中に、一つによりていはヾ、その常葉なるさか木が中に、かの鏡幣おかけ髻華にさしなどせしは、橿なる拠あり、是が如くまさきかづらといふ中に、繦とし鬘とせしは一種有つらんかし、そのよしは古今集に、み山にはあられふるらし、外山なるまさきのかづら色づきにけりとよみしは、総て常葉なる草木も、冬の初めには、去年のふるはの色づき落る物なるが、ことに山の岩木などに纏へるとこはかづらの、葉は南天燭に似て黒み有が、冬の初に古葉のえもいはず紅(もみ)づる侍り、是ぞ山ゆく時専ら目に付てみゆれば、右の如くはよみつらん、是お思ふに此かづらおまさきづらといひて、さて神事には用いつらめと覚ゆる也、