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甲斐国志
百二十三/産物及製造
一葡萄〈和名えび又作蒲桃〉 本州名産なり、岩崎村第一にして、勝沼駅の産之に次ぐ其他所植あれども遥に不相及と雲、二村は山続の畠上に架お並べ設ること、市中瓦屋の鱗次せるが如し、松平甲斐守時、九月の献上物なり、今も猶府中藩鎮より献之、又上岩崎村よりも毎年公儀へ納む、八九月の間荷駄して四方に販ぐ、一駄の直金壱両弐両許と雲、日に曝し乾けるお干ぶどうと雲、〈樹にて自然に乾けるお聚たるは猶為上品〉拌煉して膏とするお蒲桃膏と雲、共に珍味なり、古童謡に、甲州みやげに何にもろふた、郡内しま絹ほしぶだう、芭蕉の発句に勝沼や馬士は蒲桃お喰ながら〈いに〉ぶどうお一つづヽ、蜀都賦に、蒲桃乱潰〓栗罅発と、本州の蜀に似たること物産に至るまで皆然り、又蜀人醸以為酒、富人蔵酒至千斛、十年不敗と雲り、徂来詩あり、甲陽美酒緑葡萄、行露三更湿客袍、可識良宵天下少、芙蓉峯上一輪高、と賦せしも即是なり、培養の方、冬至の頃に古藤お剪り去るに法あり、寒中に三度人糞土苴お用ふ、酒槽お善とす、春彼岸に及び、以竹木造架、生芽蔓長するに随ひ、有用無用の条お撰て透し去べし、季春より除虫に始まり、夏中の調理に至る、多年錬磨の功に依て能之すと雲、