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農家業事後編

草棉名目并に土佐棉の事草棉のことは、前編に如水翁〈◯児島〉の説あれば、委しく記さず、先摂津、河内、大和辺にて作る所の種類、かぐら 八寸黄花 備中ころり 麻わた 長九郎 太こくび ちんこ のら 山城麻棉 河内ぼたん 今七兵衛 早わせ てつぽう 黄花 権九郎 猿の耳 赤わた 青わた其外国々によて数多し、右の内にも早中晩三段ありて、少々の勝劣はあれども、いづれもすぐれたる種子なり、援に又文政四五年の頃より、土佐といへる一種お、摂州にて専ら作りはじめてひろまりぬ、元来土佐の国より来れる種子なるゆえ、土佐と名付しとみへたり、此綿はくり粉多く、通例の綿七十目ある分量には八拾目もあり、旱魃にいたまず、風にまけず、雨につよく、綿の色白し、性堅実成ゆえ、糸にして強し、しかしながらねばり気少しうすし、花は白くして小さく、桃とがりあつく大きし、木は小ぶりなれども、桃多く生ずるなり、木肌は色の青がゝりたるに似たり、