[p.0374][p.0375]
重修本草綱目啓蒙
十/湿草
〓麻 いちび(○○○) ごさいば(○○○○)〈摂州〉 かなびき(○○○○)〈豊前〉 しなのお(○○○○)〈伊賀〉 一名 〓朮〈薬性要略大全〉春種お下して秋後根枯る、苗高さ六七尺、葉円大して末尖り、鋸歯あり、桐の葉の形の如く薄く、軟にして毛あり、互生す夏月葉間に花お開く、五弁黄色、大さ銭の如し、朝に開き暮に衰ふ、花後実お結ぶ、半磨の形の如しと時珍雲り、石うすの半分の如き形なり、円にして高さ五分許、闊さ六七分、上広く下微狭くして小茎あり、頂は凹にして粗き菊紋あり、外には竪に稜多し、是扁萊多く囲み並て、此形ちおなすなり、〈◯中略〉此草の皮お剥ぎ縄索とす、既に皮おはぎたる稭お、江戸にてほくちがらと雲、白くして軽虚なり、奥州仙台にても、焼て炭となし、ほくちと雲、又一種いちびと呼草あり、阿州にていちぶと雲、勢州にてつなそと雲、沿海の地に多く栽ゆ、苗高さ三五尺、葉細長く闊さ寸余、長さ三寸許、鋸歯ありて末尖り、葉の本の左右に一の細枝ありて角の如し、花実は〓麻に似て小く、子は〓麻に異なり、胡麻に似て小く扁ならず、大和本草に詳なり、是胡麻、集解に謂ゆる黄麻子にして、大麻と同名なり、〈◯中略〉増、いちぶは阿州の名産にして、沖の洲浦お上品とす、これお備前、備中、備後に送りて、席お織る糸とす、又舟の綱にも製す、乾壌の地に産するものは、紫赤色にして茎延ずして短く、皮堅くして下品とす、下湿の地に産するものは、皮青白色にして軟に、長く延て上品なり、〓麻の種類にして、別に黄麻と名く、これも皮お去り炭にして小匣に収め貯へ発火(ほくち)に代ふ、雨にされて古きお良とす、