[p.0379][p.0380]
年々随筆

すみれ二種あり、いづれもよろし、葉の細くてながきが殊によろし、ひろくて短きは色あさし、これおつぼすみれ也といふ人もあり、さる事にや、つぼすみれ、すみれもと一品にて、此花のいたうひろごらざるよりいふにもあるべし、から国ふみには菜の部にいれたり、若葉おくふ事ならんかし、大かた花は折とこそいへ、つむとはいはざるお、此花にしもしかいふは、茎いとみじかくて、折とはいふべくもあらぬさまなれば也、しかるお此あたりのものしり人、なま〳〵に菜の類なる事おも聞しり、又つむといへるが、若菜などのやうにきこゆるなど、おもひあはせてのわざなるべし、此花おいと多くつみもて来てくへりしが、いたうわづらひてえもいはぬ事などしてくるしみけるとぞ、足八つありとて、あらぬ蟹おくひし事、から人にもあり、物しり人の、中々なるひがごとする、今にはじめぬ事なりかし、