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地錦抄附録

時計草 長崎にてぼろん(○○○)といふ草はかづらのごとくにてかづらにあらず、葉の間々よりほそきつる出て、竹木に取つきてのぼる、枝多くしげり葉に切込ありて、もみぢ葉のごとく、花形てつせん風車に似て、輪の大きさてつせんのごとく、色白く桜色にうるみあり、花の内に留り、こん色と白色と、紫色と、三段ほどに染たる糸しべ、ちやせんの如くに立ならびて、花十分に開く時、そのしべ花の内へまはり敷て、三段ほどの色かはり、虹の吹たるがごとく、見事に真中よりしん立て、ゆりのしべのごとくなるもの、五本五方へわかれ、そのさきに三分ほどの物横に付く、上の方青茶色、下の方うこん色、その上に丸き玉あり青し、玉の上に黒紫色のしべ、三本三方へわかれ、そのさき丁子頭なり、朝四つ過に花開き、暮六つどきしぼむ、その次のつぼみ、又明日開く、花は一日なれ共、葉の間々ことに、つぼみ多くつくもの、さかり久し、五月上旬比より咲く、又秋のころもさく、秋咲は二三日も花しぼまず有り、花ひらく時の様子、傀儡お操がごとく回るしべあり、熨蘂(のすしべ)も有り、上下へかへる蘂も有り、さまざまの品見物あり、花開きていさぎよく、水おそゝぐがごとくに露玉ありて、総体うつくしく、是お絵書ば画工も筆おなやむべし、享保八年に、長崎より初て来る、枝お切てさしてよくつく、寒気おきらふ、九十月比、日向よき所に植てまはりと上おかこひ、寒気おふせぐべし、暖なる日は昼の間時々日おあつべし、しからざれば春に成りてかるゝものなり、三月中旬比、砂黒土にて鉢に植かへ、油かすか又は魚の洗汁などかけて、やしなふべし、