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重修本草綱目啓蒙
七/山草
人参和人参 さつまにんじん よしのにんじん とちにんじん とちのきにんじん とちばにんじん ごやうにんじん うこぎにんじん さんしごやうさう ごやうさう〈城州貴船〉 こにんじん〈鬚毛同名〉 くまもとにんじん〈肥後〉 やまにんじん〈日光〉 につかうにんじん〈下野〉 しまばらにんじん〈肥前〉 しまにんじん〈津軽〉 すヽくしにんじん〈南部〉 かもじにんじん〈会津、鬚ともに連ね乾したるお雲、〉 延喜典薬寮式諸国貢薬目次中に、摂津、伊勢、陸奥、若狭、丹波、美作、太宰府、伊予、越前、甲斐とあり、貝原翁の説には、沙参ならんと雲へり、此説近し、和人参の出たるは、稲松岡両先生より以後の事也、人参に限らず、今詳ならざる薬品、式に載るもの多し、和人参は今諸国に産す、皆深山幽谷雑木多き陰地に生ず、其初薩摩より出づ、故に総じて薩摩人参と呼ぶ、又俗に三椏五葉と雲、一茎直上し、梢に三枝お分ち、枝ごとに五葉お生じて、五加葉の如く皆鋸歯あり、然れども三椏五葉に限らず、年久きものは六七椏八九葉に至るものあり、又層椏なる者あり、並に椏中別に一茎お出し、其梢に細小花お簇生す、五弁にして淡緑色、中に白蕊あり、亦五加花に似たり、又紫蘂なる者あり、これお紫花人参と雲、城州岩屋にあり、花後実お結ぶ、形円かにして緑色、秋冬に至りて紅熟す、又一種頭に一黒お点し、相思子(とうあづき)の如き者あり、又茎上数枝お分つものあり、実お結ぶこと至て繁麗、観るに堪たり、その実地に落ち、春に至り苗お生ず、一茎三葉、次年は一茎五葉、三年には二椏五葉、四年に至て三椏五葉となる、然れども肥地に種るものは初年一茎三葉、次年二椏三五葉、三年に至りて三椏五葉となる、三椏の後は皆花実お生ず、其葉大なるものは尺余に及ぶ、鋸歯に粗密あり、色に浅深あり、体に厚薄沢澀あり、皆生ずるところの地に因て異なり、讃州山中に生ずる者は、葉細長にして鋸歯最大なり、これお細葉の人参と雲、倶に根に横円直の分あり、横根のものは竹鞭の如くして鬚多し、竹節人参とも節人参とも雲、円根の者は珠の如し、たまにんじんとも、かぶらとも、かいるこ手とも雲、並に皆白色にして臊気あり、味至て苦し、用て虫お殺し、積聚お治す、直根の者は形状韓参に似て鬚少く、味微甘、又人形の者もあり、京師の山中に生ずる者は、横円の二品のみ、紀州熊野、和州芳野に生ずる者は、三品雑り生ず、薩州、加州白山、信州松本、木曾、豆州等にも直根お出す、已上の和人参皆形状遼参に同けれども、其性最下品、補薬となすべからず、秘伝花鏡に、土参の条お載す、唐山にても此草お栽へて、紅実お玩賞すと見へたり、竹節参の鬚は微く甘味あり、薬用に入るべし、薩摩、〈のばして乾したるおかもじ手と雲〉日光〈方言かもじにんじん〉信濃の産お上品とす、但馬丹波の産は苦味多くして下品なり、朝鮮種お栽るお御種人参と雲ふ、形状は和人参と同じくして皆直根なり、其異なる所は、実の形正円ならずして、早く熟するに在り、これお劈けば、一実の内に二三子並びあり、故に其形扁し、六月実紅熟する時、下種すれば生じやすし、外皮乾燥すれば生じ難し、