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渡辺幸庵対話
一人参之事、人形共、とさむ共雲、是本人参也、総て人参の生ずる所十七ヶ所あり、其内人形人参の出生は、第一朝鮮、第二中華に在、朝鮮にてはとさむといふ処也、三十里四方岩石の山にて、草木不生、皆岩石の間に、自然にごみほこりの溜り申処に出生す、人形と申は人の首の様に上太り、夫より左右の手左右の足の如く枝付て、人の形の如く也、故に人参と号す也、麓の里おとさむといふ、第二中華の人参も岩石の中に生ず、其外は土に生る也、此土に生るは人形不備不具に候、枝の付やう全体にあらず、是も人参にして功大に劣れり、故にあなたにて人形とさむお用て、土に生る人参お第一日本へ渡す也、夫共に昔は人形も渡りし也、当時希也といふ、同じ人参ながら、人形は大に違故に、とさむ人形は自国にて用ひ、他国へは土に生るお渡す也、依之古は人参の煎粕お又煎じ、病気も無之者呑て乱心せし者多し、是気の徳厚き故也、とさむにて彼岩石の中に生ずる所、少葉立延候得者、其葉お鶴喰候故に、出生少し青み見ゆると、斧にて岩石お打砕き堀出すなり、