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重修本草綱目啓蒙
十八/葷辛
蘹香 くれのおも〈和名抄〉 ういきやう(○○○○○) 一名草蘹香〈本経逢原〉 時楽〈南寧府志〉加音草〈採取月令〉春宿根より苗お生ず、又旧茎よりも出、葉互生す、形至て細く、茵蔯蒿の梢葉に似て長く糸の如し、故に時珍糸葉と雲ふ、茎と共に白色お帯て香気あり、苗高さ六七尺、茎円にして粗し、一根叢生、夏に入て枝上ごとに花お開く、数百聚りて傘の如し、花は砕小五弁黄色、南柴胡(だいさいこ)の花に似たり、後実お結ぶ、亦相似て長さ二分許、細稜あり、熟して苗枯る、茎の本は枯れず、年お積て愈繁茂す、其子薬用に入る、地に下して生じ易し、一種大茴香あり、一名舶茴香、八角茴香、角茴香、蛮産にして和産なし、其実大さ一寸余、厚さ三分許、其形八弁、弁ごとに末尖り、中に一〓あり、甚莽草(しきみの)実に似たり、故に今多く是お以て偽り売る、宜く撰ぶべし、莽草実は形同けれども、臭気ありて毒多し、蛮書に八角茴香の彩画あり、草本にして葉も莽草葉と異なり、舶茴香と蘹香とは、形状大小同じからざれども効能同じ、故に此条に混じ入る、大小茴香の分別三等あり蘹香お小茴香とし、舶茴香お大茴香とすること、附方中に見へたり、又次の条蒔蘿お小茴香と雲ふに対すれば、此条お大茴香とす、又時珍の説に、寧夏より出者お大茴香とし、他処小者お小茴香と雲、是本条に大小の分ちあるお雲ふ、然れども角茴香お大茴香とすること普通なり、本草匯に形如麦粒為小茴香、性温宜入料食、形如柏実、裂成八弁者為大茴香、性熱損目不宜入食料と雲ふ、増、桃洞遺筆に大茴香の図お載て雲、清の張璐玉が本経逢原に、八角茴香即櫰香とあるお以て、本草香木類に載る、櫰香の実とす、蘭山先生も此説お是とせられありしに、先年予〈◯梯謙〉先生の門に遊びて東都にありし時、桂川氏蘭書うえいんまん中に載る大茴香の図お以て、先生に示す、これにて璐玉の説も誤りなることお識る、予も其席にありて、見ることお得たり、因て今〓に摸写し出す、変名あにいしと雲といへり、