[p.0419][p.0420]
農業全書
十/薬種之類
川芎川芎も良薬なり、古は本朝にはなかりしお、寛永の比長崎よりたねお伝へ来て、大和にて多く作る、其外諸所に作るは性よからず、先たねに取置事は、蘆頭と又は小節のある細き所お、ほり取時別にえり分置、桶か箱に沙お入、いけ置て、すぐれて肥たる性よき土の、上畠お冬よりさい〳〵耕し熟したるお、又二三月の比よくこなし、畦作りし、横筋お麦おうゆるごとく、八寸一尺ばかりも、間お置て切、ならびの間も、六七寸に一科(かぶ)づゝうへ、土おおほひ置、生て後芸り培ひなど、他の作り物に同じ、糞お用ゆる事、先初めは少づゝおくべし、花のつぼむお見てより、多く入べし、沙がちなる黒土、又は白きもよし、但中分より下の土には必作るべからず、吉野にて作る畠は、赤土に沙少少小石も交りたる、いかにも肥たる山畠なり、掘取事は、十月十一月の間よし、鬚およくむしり、わきの細根も悉く去りて、浄く洗ひかはかしおくべし、釜に湯お立、一あは煮て、箸にてさして見るに、よくぬくる時、其まヽあぐべし、煮へ過ればあしゝ、干上る事は、干過ると雲事なし、是又四物湯の一色、其外諸方に多く用ゆる物なり、山下など性よき肥地ある所にては、多く作るべし、厚利の物なり、