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続昆陽漫録
胡蘿蔔胡蘿蔔は形の人参に似たるお以て、我国の俗、人参と雲ふと思ひしに、先年八住順庵の話に雲く、明銭希言集曰、治疾当得真人参、反得支羅服、当服麦門冬、反得丞横麦、三代以下皆以支羅服丞横麦、合薬、病日痁而遂死也、按潜夫論如此、支羅服疑今小朱蘿蔔也、呉越間有之、謂之丁香蘿蔔、其形如参、故誤用耳、丞横麦疑即本草穬麦是矣、陶弘景曰、根似穬麦、故謂之麦門冬、以訛伝訛、曷所底止、〈按ずるに、〓夫論に、治疾当得人参、反得支羅服、当得麦門冬、反得丞横麦已而不識真、合而服之、病以侵劇、不自知〓為人所〓欺也雲雲、三代以下皆以支羅服丞横麦合薬、病日痁而遂死也に作る、〉とこれにて観れば、小朱羅蔔は胡蘿蔔にて、人参に代へしゆえ、我国にて人参と雲ふなるべし、胡蘿蔔味甘美にして、極めて補益の功あるべければ、人参に代たればとて、何ぞ病日に痁して〓に死するに至らんや、名医褚澄の言に、世無難治之疾、有不善治之医、薬無難代之品、有不善代之人とあれば、潜夫論、治世不得真賢の譬ひなれども、曲がれるお矯て直に過ぐと雲ふべし、本草綱目に、元の時より胡蘿蔔西土に来るとあれども、〓夫論にてみれば、胡蘿蔔は、後漢の前より西土にありとみゆ、小朱蘿蔔、丁香蘿蔔の名お載せざるは、本草綱目一欠なるべし、