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農業全書
三/菜
胡蘿蔔にんじん根の黄なるおえらびて作るべし、白きは味も劣れり、たねお取事、春茎の立時、中にて細きはぬき去、ふとくして根の黄なるばかりお立おき、花の付時枝おも皆切のけて、本茎ばかりの子お取べし、同じくうゆる地の事、大根に替事なし、いか程も細かにこなし、糞お多く打からし置、うるほひお得て、たねお砂と灰とに合せ、横筋お五六寸にきりて薄く蒔べし、糞水おなる程多くそゝぎ、種子おほひお、指の厚さ程にして、旱せば猶もさい〳〵水おそゝぎ、草お取さり、二三寸にもなりたる時は間引立、間お熊手にてかきあざり、段々間引て、後は五六寸に一本宛ある程に薄くすべし、薄き程根ふとし、よき程さかへたる時、上おしかとふみ付べし、かくせざれば土和らかにうきて、葉のみしげり、根却てふとからず、ひげもありて中うつけ、柔らかにして牙脆からず、種子お残し置て、来三四月早く蒔て、手入お委しくしたるは、よくいでき根大きなり、にんじむは、土地のつよくかはきて、あらきお好まず、常に畦の中少うるほひ有事よし、いか程も薄く間引て、一本づゝのわきおほりて、油糟お入れば、大かたの大根ほどはふとる物なり、是菜中の賞玩にて、味性も上品の物なり、菜園にかくべからず、但にんじんは其種子お家におさめずとて、其地お前よりよくこしらへおき、子お取て家へ入ず、其まゝ蒔物なり、