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草木六部耕種法
十一/需花
百両金(たちばな)は大抵鉢植にのみする者なり、仮令ひ花壇に作るとも、草能く繁生する野土山土お採て篩(ふるひ)にて能透し、此細末にしたる土十荷に、干鰛粉(ほしかのこ)五升、油糟粉五升お能く調合して植べし、最も陰地お良とす、其植たる上に日覆お設て、夜は此お除て露お受しめ、小雨の当るも苦しからず、然れども湿(しめり)過るときは、根の腐る者なり、夏の間は刷毛か筆お以て、隔日に水にて葉の表裏お能く洗ふべし、然せざれば微細なる虫お生じて、葉の落る事多し、凡そ百両金の実お蒔には、三月頃に採て直に蒔き、浅く植て実見ゆるお良とす、既に生たるお実生も故木も、四月には土お替て移し植べし、如斯するときは能肥りて勢壮になる者なり、接木するにも四月頃に接べし、凡そ百両金は、実には赤、淡赤、黄、白、紫等あり、葉にも多羅葉(たらえふ)、鳳凰(ほうわう)、縮緬(ちりめん)、繻子(しゆす)、笹葉(さヽば)、櫧葉鶴岡(かしはつるがおか)、斑紋(ふいり)、幅輪(ふくりん)、間道(しま)、白星(しらぼし)等あり、下品なるお切て砧(だい)となし、珍奇なるお接木すべし、又別に木立百両金と雲ふ者あり、高さ五六尺に及び枝多く、其葉は血櫧(あかめかし)の如くにして厚大に、花実も珠砂根に似て大なり、此亦栽覧すべきの一物なり、