[p.0453][p.0454]
庖厨備用倭名本草
五/野菜
蘿藦(らま) 倭名抄に蘿藦なし、多識篇にかばねくさ、今案しかいも、考本草蘿藦は藤生也、是お摘ば白汁あり、人家に多く種ふ、葉あつくして大なり、生にて啖ふべし、蒸ても煮ても食すべし、諺雲去家千里勿食蘿藦枸〓、いふこヽろは精気お補益して、陰道お強く盛になすこと、枸〓葉と同じければ也、三月に苗お生ず、〓垣に蔓延して極めて繁りやすし、其の根は白くやはらかに、其の葉は厚く長くして、後へ大に前尖、根と茎葉と断ば皆白汁あり、六七月長花お開く紫白色也、其の実は長さ二三寸、大さ馬兜鈴の如し、一頭とがる、殻は青くやはらかにして、其の中に白絨と漿とあり、霜後に枯裂て其の子は飛ちる、子かろくうすくして兜鈴子の如し、商人其の絨おとりて、坐褥お作りて綿に代て、其軽煖也と雲、元升〈◯向井〉曰、此註おみれば蘿藦は肥前の山野人のかぶなと雲ふものなり、かぶなはつるかづらにて、山野の樹にかヽり生じて、はびこりさかへ、其の実も茎葉も本草の註にいへるが如し、霜枯て後、其の実さけて、内より白はんやの如きもの出て風に吹ちる、異国より渡る白はんやは是ならんか、吾人は是おとりて綿に代る事おしらず、又茎葉お食する事おしらず、故に人家に種るものなし、今人家みな種なば、衣食の一助なるべし、