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塵袋

一槿花はあさがほの花歟、別の物歟、あさがほに、あまたの名あり、明花と名け、日及となづけ、王薬となづけ、赤菫となづけ、又は胡菌と雲ふ、又俊と雲ふ、但しあさがほとむくげとは、あしたにさきて、夕におつる物也、是故に二のものの名みなまぎれて、かよひもてり、番岳が胡菌の賦と雲ふには、むくげお思ひて雲へるにや、彼賦曰、胡菌者世謂之木槿、或謂之日及、郭璞曰、似李樹棗、朝生夕殞可食、或呼曰日及と雲雲、すもヽなつめににたりと雲へるにてしりぬ、木のすがたなりとは、よのつねのあさがほのつるには非ずときこゆ、此辺のむくげはすもヽににたりともおぼえず、所にしたがふにや、ひさごの花お夕顔と雲ふに対して、牽牛子のつるおば朝顔と雲ならはせり、今は又むくげに通用して、槿花とも雲ふなるべし、