[p.0464]
松の落葉

あさがほあさがほとは、あしたにさくかほ花お、なべていへるにて、ひとつの草の名にはあらず、そのよしつぎ〳〵にときあかすべし、まづ新撰字鏡に桔梗、〈加良久波〉又雲〈阿佐加保〉とあるもその証なり、からくはといふが正しき名にて、あしたにさくうつくしき花なれば、あさがほともいへるなり、今の人牽牛子おのみあさがほとおもへるはたがへり、〈◯中略〉此草は野山におのづから生ることなきは、から国よりたねのわたり来て、ひろごれるにぞあらん、其わたり来つるは、今の京のはじめのころなるべし、さて朝がほといふこヽろお、くはしくいはんとす、いにしへかほ花といひしは、かほのすぐれてうつくしきはなの事なり、かほといふは、今の世にかほかたちといふ意なり、かほかたちのすぐれたる人お、中ごろには、かたち人といひき、それと同じこヽろなり、されば何にまれ、朝さきてかほのすぐれたる花おめでヽ、あさがほといひはやしたるにて、花の名にはあらず、〈◯中略〉牽牛子のわたり来ては、これもあしたにうつくしき花さけばしかいひ、槿花もさやうなれば、あさがほとはいへるなり、〈◯下略〉