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嬉遊笑覧
十二/草木
安永七八年、さくら草、形のめづらしきがはやり、権家の贈りものとす、数百種に及ぶ、これは下谷和泉橋通りに、谷七左衛門といふ大番与力あり、其人の老母、花お植作る事お好み、桜草お多く植作れり、〈◯中略〉其後朝がほお多く作り、さま〴〵の花出来しかば、この度は六枚折の小屏風お葭簀にて作り、細き青竹処々節ある処にて、竹の花生のやうに口お切て、節毎に水お貯へ、朝がほの蔓の先、葉一寸ちぎりたると、花一りんとお、花生の口ごとに挿み、これお件の屏風にかけならべて、屏風はたヽまるヽやうに、縁お厚く作るなり、是も人に借して見せたり、この屏風はあまた有き、文化五六年の事なりし、一とせ谷氏大坂に在番したる頃は、彼地へ多く牽牛子お送りたり、