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甲子夜話
十四
近くは牽牛花の変甚ふして、花色のみならず、葉の形状も変じて、柿葉、柳葉、楓葉、葵葉などヽ唱へ、いかにも其呼所の如き葉なり、花の品類お賞するは聞へたり、葉形の変ぜる何おもしろかるべきや、人の好尚もかく迄ねぢけたることよと、興醒るばかりなり、又一変して、花の大輪お賞すること流行出し、花の指渡し数寸に及ぶ、其種法お聞くに、肥土お臘月より製し、床下に蔵め、春雨にあてヽ盆に上せ種お下し、又移植して培養し、蔓の延ざるやうに先お留め、葉も多くては精力洩る迚摘去り、花数も才つけて、隻一花の輪の太きなるお互に戦はす、其盆栽の形容、蔓生とも見へず、譬へば鳥の〓毛おむしり取しが如く、誠に見苦しく見るに堪ざる計なり、菊牡芍などは、盛も久しければ、花の見所も長くあり、牽牛花の朝に開き、昼は萎果る物なるお、頃刻の観に供する迚、半年余の人力お費すは、余りといへば了簡もなき、浅はかなる娯楽にて、いかにも今の世の人心相応の玩物よと思へば、長大息して其花も見られぬやうに覚ゆ、此巧思と人力とお以て、五穀の中何なりと、新たに作り出さば、後世民用の助となる嘉穀の別種も、生ずべきにや、